カーAV評論家会田肇がフランクフルトモーターショーで公開されたFull Digital Sound新システムをチェック
文:会田肇
カーAV評論家
1956年茨城県生まれ。自動車雑誌編集者を経てカーナビゲーションやカーAV機器を中心とした取材活動を行う。ITS分野への関心も高く、最近ではADAS(先進運転支援システム)関連にも活動範囲は及ぶ。日本自動車ジャーナリスト協会会員。自動車の電動化が進む中、高い効率でなおかつ高音質として注目されているのがクラリオンの車載用「フルデジタル サウンドシステム(FDS)」だ。来春の正式発売を前にFDSのサウンドをIAA(Internationale Automobil-Ausstellung )フランクフルトモーターショー2015に出展したクラリオンのブース内で試聴した。
IAAは、1897年に第1回を開催した120年近くもの古い歴史を持つ世界有数の自動車ショーだ。二年に一度開催されるこのショー、会場に入って驚くのはその規模の大きさだ。ドイツの“ビッグ3”である、フォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、BMWの各グループはそれぞれ一つの建屋内で展開し、それだけで一つの自動車ショーとして成り立ってしまいそうなほど。各グループとも話題の新車だけでなく、電動化への動きにも余念がない。そうした中でクラリオンはFDSをはじめとする自社の最新技術をアピールすべく、会場内にブースを構えたのだ。
そのFDSの第一世代モデルをクラリオンが発表したのは2012年のこと。それから3年が経った今年、従来のオーディオソースはもちろん、話題のハイレゾ音源にも対応可能とした最先端オーディオシステムへとフルモデルチェンジ。今年9月に開催されたIAA2015でデビューを果たしたのだ。
システムは、プロセッサー/ツィーター/コマンダーで構成する「Z3」と、フルデジタルスピーカー「Z7」、フルデジタルサブウーファー「Z25W」の3製品で構成される。2012年に登場したフルデジタルスピーカーシステムの技術をベースとしてデジタル信号を効率よく音に変換する独自の車載用高出力LSIの新開発。この採用がフルデジタルサウンドの音質向上をもたらし、幅広い機器との接続を実現した汎用性の高さも合わせ持つ。
そもそもこのFDSでは、音源からスピーカーに至るまでのすべてをデジタル伝送しているため、外部アンプを必要とせず音質劣化が基本発生しない。スピーカーに駆動回路を帯域ごとに用意し、それが直接コーンを動かす仕組みとなっているからだ。アンプがないぶんだけ軽量化にも貢献でき、これは燃費向上を図る自動車メーカーにとっては大きな魅力。しかも、消費電力は従来の約8分の1で動作するのだ。電動化が進む自動車にとっても無駄な電力を使わなくても済み、それこそがFDSに期待がかかる所以でもある。
会場に置いてあったデモカーはSUBARU「BRZ」。そのサウンドは期待以上だった。まず中高域のクリア感は想像以上でボーカルやバイオリンの艶やかな響きがキレイに伸び、音楽の余韻までも伝播されていく様子がわかるほど。しかも低域の立ち上がりも速く、連続するベースの音ももたつくことなくビシッと表現される。音全体に厚みを増していることも感じ取れ、前モデルで感じた軽めのサウンドから大きく成長したのは間違いない。若干、音に柔らかさが欲しい気もしたが、その辺りはスピーカーのエージングが進むにつれて改善されていくものと思われる。
システムは、外部オーディオ機器をはじめ、ハイレゾ対応Androidスマートフォンなどと組み合わせてフルデジタルで再生可能。センターユニットは純正や市販AV機器との組み合わせ、デジタル出力/アナログ出力を問わず接続できる。また、スマートフォンやタブレットからのサウンドチューニングができる点も見逃せない。この日、組み合わされていたヘッドユニットは発表に間に合わせるための試作機だったが、クラリオンによれば来春の正式発売に向けデジタル出力端子付きの専用モデルを準備中だという。このFDSは来春、まず日本で発売され、順次、欧米や豪州で発売される予定だ。